東洋医学の健康の捉え方

身体の根本から健康にしていくためには、古来から伝わる「東洋医学の考え」がとても参考になります。

東洋医学は西洋医学よりも歴史がずーっと長く、自然と調和した生き方をしていれば病気にならない、という考えが根本です。

 

『いまだ病まざるを治す』

・・・自然治癒力を高め、病気になりにくい身体づくりをする。

 

これが、東洋医学の健康の捉え方です。鍼灸治療も元々は疾病の予防を目的として発達したものです。

病気にかかりにくい身体作り、身体の抵抗力を高める治療を昔はしていたのです。

 

東洋医学の考え

東洋医学では、「気」「陰陽説」「五行説」が重要なキーワードとなります。

人間は「自然の気(温度や湿度、風の強弱など)」をうけて生活しています。そして、自然界には陰陽の時期(昼夜、四季など)が平等にあります。

この自然界の気の働きを人体も受けるので、身体にも陰陽の気の働きがあると考えます。

自然界に気のバランスが平等にあるように、身体の陰陽の気もバランスを保っています。

東洋医学では、その陰陽の気のバランスをはかり治療することで、自然治癒力を高めていくのです。

逆に、このバランスが乱れれば「疾病」段階にある、という捉え方です。

「気」について

日本では「気」と聞くと、普段何気なくその言葉を使っているのに関わらず、ちょっと怪しい?感じがしてしまうのも事実です。人は見えないものに対して抵抗感を抱きがちです(電磁波や物理でいうエネルギーも見えないのですが…)。

元気、病気、空気、天気、電気、気になる、気が利く…などあらゆる場面、言葉として「気」が用いられています。しかし古代中国では、「気」を空間と時間の具体的な事象として解釈し、宇宙万物を形成する最も基本的な物質として捉えています。

まだ形も無く、混沌とした広がりが「宇宙」であり、天地未分化だったものが、やがて軽く澄んだ気(清軽な気)である「陽」が 上昇して「天」となり、続いて重く濁った気(重濁な気)である「陰」が沈んで「地」となり「天地」が始まり、天地陰陽の「二気」から「四気(四季)」が生じて、それによって人を含めた万物が生じた、と考えます。

人間の精神は「天の気」、つまり「陽」で、肉体は「地の気」、つまり「陰」だということになり、「生」はその精神と肉体との結合、「死」は両者の分離である、と説いています。

また、人は両親から「陰(母)」と「陽(父)」の精気を受けて、これが合して1つの生命ができ、「天の陽気(空気中の活力源)」と「地の陰気(飲食物中の活力源)」を取り入れて生命活動を維持しているとしています。体内の陰陽の気が調和していれば「健康」であり、陰陽の気が不調和になると「疾病」になり、気が散逸すると「死」に至ると考えます。

以上の考えが広義の意味での「気」の考えです。

東洋医学の「経絡」というのは、この「気」の通り道であり、ツボ(経穴)はこの経絡上の反応点(治療点)なのです。

それに対し狭義の意味での「気」は、人体の各臓腑組織の生理機能としての「気」を指します。

例えば、消化管において、物質としての「気」は胃や腸そのものを指しますが、生理機能としての「気」は胃腸の消化吸収機能を指します。

「陰陽説」について

「陰陽思想」は古代中国神話に登場する帝王「伏羲」が作り出したものと言われており、全ての事象はそれだけが単独で存在するのではなく、「陰」と「陽」という相反する形で存在し、それぞれが消長をくりかえすという思想です。

つまり、表と裏・天と地・上と下・男と女・静と動・善と悪というように、事象には必ず対となるものがあり、「陰」と「陽」という対立した形で世界ができあがっていると考える原理であり、物事を真っ二つに分けるという極端なことではなく、例えば、白が徐々に灰色になり黒くなりまた白に戻るというふうに、陰と陽が互いに消えたり長じたりする、という考えです。

「五行説」について

「五行思想」は夏の創始者「禹」が発案したものであり、万物は「木火土金水(もくかどこんすい)」という五つの要素により成り立つとするものです。

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禹が定めた五行というのは、「水は潤下し、火は炎上し、木は曲直、金は従革し、土は稼穡す」というもので「木火土金水」と五つの「味」、五行五味の調和を政治の基礎と考えたといいます。そしてこの考え方が、後に斉国の鄒衍(すうえん)によって、五つの惑星と結びつけられ、万物に当てはめて、観念的な五行説が完成しました。

鄒衍の説は、「天地のはじめ、混沌としたなかで、明るく軽い気が陽の気をつくり、火となる。暗く重い気は陰の気をつくり、水となる。天上では火は太陽となり、水は月となり、これが組み合わされて、五つの惑星となる。地上では火と水から五原素ができる」としています。

すなわち、「木火土金水」という五つの元素、気、状態から万物が成り立ち、それらが干渉しあい、あらゆる現象が出てくると考えたものです。さらにその後様々な事象と結び付けられ、陰陽思想と五行説が統合されて観念的な陰陽五行思想として完成しました。

陰陽五行説では森羅万象すべての本質を「五行」に還元します。時間も空間もみんなその対象になり、例外はありません。

①木(木行)

木の花や葉が幹の上を覆っている立木が元となっていて、樹木の成長・発育する様子を表す。
「春」の象徴。

②火(火行)

光り煇く炎が元となっていて、火のような灼熱の性質を表す。「夏」の象徴。炎の神 。

③土(土行)

植物の芽が地中から発芽する様子が元となっていて、万物を育成・保護する性質を表す。
「季節の変わり目」の象徴。

④金(金行)

土中に光り煇く鉱物・金属が元となっていて、金属のように冷徹・堅固・確実な性質を表す。
収獲の季節「秋」の象徴。

⑤水(水行)

泉から涌き出て流れる水が元となっていて、これを命の泉と考え、胎内と霊性を兼ね備える性
質を表す。「冬」の 象徴。

 

『相生相克の関係』

東洋医学では、「五行の相生相剋関係」を自然界の正常で法則的な現象だと考え、人体に当てはめると正常な生理現象だと見ています。物事全ての間には相生と相剋の関係があって初めて自然界は生態を維持でき、人体も生理的な平衡を維持できている、としています。

「相生」とは「母子関係」とも言い、「木」は「火」を、「火」は「土」を、「土」は「金」を、「金」は「水」を、そして「水」は「木」を生ずる(育成・援助・保護)という関係のことです。

「相剋」とは、「木」は「土」を、「土」は「水」を、「水」は「火」を、「火」は「金」を、そして「金」は「木」を克す、つまり前者は後者に打ち勝つ(抑える・支配する)という順序です。

このような関係は、五気それぞれが象徴するものの性質に応じて、素朴に説明されます。

木は燃えて火を生じ、火が燃えて灰(土)が出来、土の中から金属類が出て、金生水は特別で銅盤を月夜において聖水を得ることからきていると言われ、水が木の生成に欠かせない、というのが相生関係です。

そして、木は土から栄養をとり、火は金属を溶かし、土は水をせき止め、金属は木を切り倒し、水は火を消す、というのが相剋関係です。

また、当然木は火を出すと燃え尽きてなくなってしまうし、水は火を消すと蒸発してなくなってしまうという行き過ぎると逆の関係もでき得ることになりますが、実際それは相生のなかに相剋があり、相剋のなかに相生があるという性質として表されます。相生と相剋の関係が五行間に働きあっていることによって、いかなる事象も統一体としての調節機能が働き、その過不足を防止し相対的な平衡を維持しているのです。

これら、五行の相生相克関係は「経絡治療」において非常に重要な役割を果たし、それを元に気のバランスを整えることで、自然治癒力を高めていくのが、本当の東洋医学なのです。

東洋医学の基本的な養生法

東洋医学では、「怒り」は肝を傷つけ、「悲しみ」は肺を傷つけなどと言います。そのような「情動」が健康に深く関与することを昔から言っているのです。

我々をとりまく様々な生活環境の刺激が、生体に影響を及ぼすことを表しているのです。

◆基本的な養生法

①飲食に過不足がないようにする

②心身共、過労を戒める

③酒によっての性行為は控える(二重に陽気を奪われる)

④四季の自然な状態に調和した生活をするのが良い

:陽気が多くなる季節なので、活動的な気持ちをもつことが大切です。適当に運動して陽気を発動してあげると良いです。活動しないと、陽気が沈んだままで夏でも汗が少なく冷え性となります。

:日が長いが怠けず、適当に運動して1日1回発汗するように心がけることが大切です。気分的にも発散するような気持ちでいると良いです。発散しないと、身体内に熱がこもって病気になります。

:「~の秋」と言いますが、あれもこれもやりたいと活動的になってはいけません。活動しすぎて、陽気を発散すると肺が弱り下痢になったりします。

:陽気も深くしまわれるので、心身ともに活動的になってはいけません。発汗したり、酒を飲んで一時的に陽気を多くしたりすると、反動で冷えて腎を侵します。冬に無理をすると春になっても陽気が発動しません。

例をあげたように、現代では④の「四季に応じた生活」というのが重要なポイントです。

現代人の治癒力が低下した理由は様々なことが考えられますが、「生活の利便性の向上」も大きな要因の一つです。もっと、日本人が堅強過ぎて外国人が恐れていた頃の生活を目指せば、きっと今よりも疾病は減少するでしょう。